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名古屋高等裁判所 昭和29年(ネ)449号 判決

控訴人 原告 久野かや 外一名

訴訟代理人 早川浜一

被控訴人 被告 国

代表者 法務大臣

指定代理人 大畑定一 外三名

主文

原判決を取消す。

愛知県知多郡横須賀町農業委員会が別紙第二目録記載の農地中同町大字大田字下前田四番田三畝四歩につき昭和二十六年十二月二十一日樹立した売渡計画は無効なることを確認する。

同農業委員会が別紙第一、第二目録記載の農地につき昭和二十七年四月十日樹立した買収計画、売渡計画は何れも無効なることを確認する。

控訴人等其の余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて三分し其の一を被控訴人の負担、其の余を控訴人等の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す。被控訴人は愛知県知多郡横須賀町農業委員会が別紙第一、第二目録記載の物件につき為した昭和二十六年十二月二十一日附農地買収売渡計画並昭和二十七年四月十日附農地買収売渡計画は何れも無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は左記の外原判決事実摘示と同一であるから之を引用する。

控訴代理人の陳述

一、本件第一、第二目録記載の農地の昭和二十六年十二月二十一日附第一回買収計画、売渡計画は昭和二十七年四月十日附第二回買収計画、売渡計画によつて全部取消されたから第一回の買収計画、売渡計画は当然無効である。

二、第二回買収計画、売渡計画に基き昭和二十七年四月十二日を買収、売渡の時期とする買収令書、売渡通知書の各発行があつたのであるから右第二回買収計画、売渡計画は行政行為として外部に対して表示されたものと謂うべきである。そして右第二回計画については縦覧期間、異議申立期間、公告が決議されていない。是等の事項は公益に関し買収計画、売渡計画の法定必要事項であるから之を欠く第二回買収計画、売渡計画は法律上当然無効である。

被控訴代理人の陳述

一、第一回買収計画、売渡計画が取消されたとの点を否認する、昭和二十七年四月十日附の第二回買収計画、売渡計画の決議は不服の対象たる行政処分として未だ効力を発生していないのであるから昭和二十六年十二月二十一日附の第一回買収計画、売渡計画は無効ではない。

二、買収令書、売渡通知書は昭和二十六年十二月二十一日附の第一回買収計画、売渡計画に基いて発したものであり控訴人等主張の如く第二回の計画に基くものではない。

証拠として控訴代理人は甲第一乃至六号証を提出し原審証人早川半一、当審証人早川半一、久野与八郎、岡戸昌司の各証言を援用し乙号各証の成立を認め乙第一号証ノ一及四を利益に援用し、被控訴代理人は乙第一号証ノ一乃至四、同第二号証ノ一乃至十二、同第三号証ノ一乃至三を提出し、原審証人高津秀夫、久野安太郎、早川半一の各証言を援用し、甲第一号証の成立は不知、同第二乃至六号証の成立を認めると述べた。

理由

第一、昭和二十六年十二月二十一日の買収計画、売渡計画の無効確認請求について、

別紙第一目録記載の農地がもと控訴人久野かやの所有に属し、第二目録記載の農地がもと控訴人久野育雄の所有に属していたこと、昭和二十六年十二月二十一日右各農地について愛知県知多郡横須賀町農業委員会が買収計画及売渡計画(以下第一回買収、売渡計画と称す)を樹立したこと及訴外久野安太郎は当時右委員会の委員であつたところ第二目録記載の農地の内同町大字大田字下前田四番田三畝四歩については小作人であつて右農地の売渡計画の買受人となつており且其の売渡を受けたことは当事者間争がない。

控訴人等は右第一回買収売渡計画樹立については前記久野安太郎は其の決議に参与してはならないのに之に参与しているから右計画は無効であると主張するので案ずるに農業委員会法第三十九条によれば委員会の委員は自己又は同居の親族若しくは其の配偶者に関する事項については其の議事に参与することはできない旨規定されているところ成立に争なき乙第一号証ノ一及当審証人岡戸昌司の証言によれば右第一回買収計画、売渡計画樹立の決議には定員二十名の委員中委員伊藤寿重欠席の外他の久野安太郎を含む十九名の委員出席し全員異議なく之を決議していること即ち委員久野安太郎が右決議に参与していることが認められる。原審証人高津秀夫、久野安太郎の証言中「昭和二十六年十二月二十一日の第一回買収、売渡計画樹立の決議については久野安太郎は右が議案として上程されるや退席して其の決議に参与しなかつた」旨の証言部分は果して正確な記憶に基くものなりや否や疑わしくたやすく之を措信し難い。即ち前記乙第一号証ノ一議事録には前記買収、売渡計画の議案の上程に際して久野安太郎が退席したことの記載がない。そして右議事録全体を見るに出席委員、欠席委員の氏名を明記し議事の経過が各議案毎に詳細に記載されていることから徴して、又右買収、売渡計画に対する控訴人等の異議を審議した昭和二十七年三月十四日の議事録(成立に争なき乙第一号証ノ三)には委員久野安太郎欠席の旨明確に記載されていることから見て久野安太郎が或る議案が上程せられるや自己に関係ありとして特に其の議案に限り退席したというが如き注目すべき事項の記載を脱落するということは容易に信ぜられず当審証人早川半一の証言によりて真正に成立したものと認むべき甲第一号証にも久野安太郎は右議案の出席者として記載してあり本件各議事録の出欠の記録は正確であると認めるのが相当であり、殊に原審証人高津秀夫、早川半一、久野安太郎、当審証人早川半一の証言は一致して昭和二十七年四月十日の本件農地の買収、売渡計画(控訴人等が第二回買収売渡計画と称するもの)の決議のときは久野安太郎は欠席していたのであつて議事録に出席とあるは誤記であるというのであるが成立に争なき乙第一号証ノ四の右議事録には久野安太郎は右議事の出席委員として明記してあるのであつて同人について議事録にかような脱落や誤記が繰り返されることは首肯しかねるのであり、更に被控訴代理人が原審に提出した答弁書(原審第二回準備手続において陳述)においても控訴人等の主張事実はすべて之を認めると謂い、久野安太郎が昭和二十六年十二月二十一日の買収、売渡計画樹立の決議に参与したとの控訴人の主張事実を被控訴人は原審の当初においては敢えて争つておらず以上の如き状況と当審証人岡戸昌司の証言と対比して久野安太郎が昭和二十六年十二月二十一日の決議のとき退席したとか、昭和二十七年四月十日の決議に欠席したという前記証言部分は之を信用し難い。されば久野安太郎が第一回売渡計画について別紙第二目録の農地中字下前田四番田三畝四歩の売渡計画樹立の決議に参与したのは自己に関する事項に参与したものであつて違法である。然し同人が右農地の買収計画樹立の決議に参与したことは自己に関する事項に参与したものとは謂えないから違法ではない。蓋し農業委員会法第三十九条は自己に利害関係ある場合と謂わずして自己に関する事項と規定し参与し得ない原由を明確に限定しているからたとえ或る農地の小作人であつて右農地が買収されれば自己が其の売渡を受け得る相手方たるべき利害関係を有していても其の農地の買収計画においては其の農地の所有権を政府が取得すべきことの計画を定めるのが決議事項であつて其の農地の所有者に非ざる小作人にとつては自己に関する事項とは謂えないのである。控訴人等は買収計画と売渡計画とが一括して決議されているから売渡計画中一筆の農地につき久野安太郎が小作人として買受人でありながら右一括決議に参与した以上不可分のものであつて本件農地の全部につき右両計画全体が違法であると主張する。成程前記乙第一号証ノ一によれば第二号議案として数筆の農地につき買収及売渡の両計画を同時に決議しているけれども買収計画と売渡計画とは決議事項を異にしているものでありたとえ同時に決議されてもそれは別個の決議であるから売渡計画に前記の如き違法の瑕疵ありとするも買収計画には影響はない。又買収計画にしても売渡計画にしても特定の個々の農地の権利変動の計画を定むることを目的とするものであるから数筆の農地を併せて同時に計画樹立の決議をした場合でも一筆の農地についての除斥原因ある委員参与の違法は其の一筆の農地の計画樹立のみに存し他の農地の計画樹立に累を及ぼすものではない。そこで久野安太郎が小作人として買受人となつていた前記第二目録中下前田四番四三畝四歩の売渡計画の効果について見るに右は前叙の如く其の樹立決議に参与し得ざる委員久野安太郎が参与した点において此の一筆の売渡計画に限つて違法であるから取消し得べきものであるが本件においては取消の出訴期間は既に経過しているから之を取消し得ない。従つて茲に右違法は右農地の売渡計画を当然無効ならしむべき程の重大明白な瑕疵なりや否やを考察しなければならない。控訴人等は委員の議事参与の制限は一人の力よく百をも制するという影響力を排除する為め設けられた強行規定であると主張する。勿論強行規定であるから其の違背は直ちに決議取消の原因とはなるけれども行政処分は強行法規に違背するというだけでは直に当然無効と認むべきではなく其の違背が法律上到底処分の効果を認容し難い程の重大明白な瑕疵と認むべきものでなければならないと解せられる。そこで右売渡計画樹立の決議についていえば右の違法が重大な瑕疵と謂わんが為めには其の違法がなかつたならば右の売渡計画樹立は可決されなかつたことが明白であるという程のものでなければならぬと思われる。然るに本件においては斯様な事情は認められない。即ち農業委員会法第三十八条によれば議事は出席委員の過半数を以て決すべく可否同数なるときは会長の決するところによる旨規定されているところ成立に争なき乙第一号証ノ一によれば右売渡計画に、ついては定員二十名の委員中十九名が出席し委員久野安太郎の特別の発言もなく出席委員全員異議なく一致して之を可決していることが認められ、委員久野安太郎が決議に参与したことが他の委員に著しく影響した事跡の見るべきものがなく結局同委員が参与しなかつたとしても結果は同一であつたと認められ従つて委員久野安太郎の参与の違法は右売渡計画を当然無効ならしめる程重大ではないと認めるのが相当である。

次に第一回買収計画、売渡計画は前記の如く両者を併せて同時に決議されているので未だ買収手続が完了せざるに先だち売渡計画を樹てることの当否について考察を要するところであるが両計画ともに直に権利変動の終局処分をするものではなく自作農創設の事業が公正に行われるのを期する為め権利変動の準備行為として予め計画を樹てて之を公表し以て終局処分たる買収、売渡が適正公平に行われようとするものであるから手続の進行の迅速を計るために買収と売渡とにつき同時に計画を樹立することも妨げないものであつて買収手続が完了していないからといつて売渡計画が違法であるとは謂えない。

次に控訴人等は本件農地の昭和二十六年十二月二十一日附第一回買収、売渡計画は昭和二十七年四月十日の横須賀町農業委員会の決議によつて取消されたから無効であると主張するので此の点について審理するに成立に争なき乙第一号証ノ一乃至四、甲第六号証、原審証人高津秀夫当審証人岡戸昌司の証言を綜合すれば右第一回買収、売渡計画樹立においては横須賀町農業委員会は控訴人等を同居の親族と認め其の保有面積超過の小作地として本件農地(別紙第一、第二目録の農地)の外に(イ)細田二十二番田二十三歩、(ロ)上番水五十三番田四畝七歩、細田四十九番田二畝十三歩、細田五十八番田五畝二十一歩、替地十番田一畝二十四歩、蟹田五十番ノ一田一畝六歩、下前田二番ノ一田二畝二十七歩計六筆を包含していたところ控訴人等の異議申立に基き同委員会は昭和二十七年三月十二日の決議において控訴人等を別居者と認め控訴人久野かやの農地の買収及売渡両計画中同控訴人保有面積侵蝕部分ありとし此の部分を取消すこととなし同月十四日の委員会において右取消すべき農地を前記(ロ)の六筆と定め且第一、第二目録記載以外の農地で(ハ)別所二十四番田九畝一歩、蟹田九十番田五畝一歩計二筆を控訴人久野育雄から追加買収する旨の決議を為し、控訴人等は之につき尚訴願をしていたところ昭和二十七年四月十日の委員会において定員二十名の委員中委員高津元治欠席の外委員久野安太郎を含む十九名の委員出席し「控訴人等より訴願が提出されていたので本日県農業委員会より調査に来町され訴願人及関係小作人とも調定が成立したのでそれぞれ訴願書を取下げることになり新しく調定した線において買収計画並売渡計画を樹立することになつた」ということを理由にして従来樹立された控訴人等所有農地の買収計画並売渡計画を「全面的に取消す」旨出席委員全員一致を以て決議し、直に「控訴人等所有農地の従来の計画は全面的に取消すことになつたので調定の成立した線において新しく買収並売渡計画を樹立する」とて控訴人久野かやの所有農地については別紙第一目録の農地五筆及前記(ロ)の六筆中蟹田五十番ノ一田一畝六歩を除いて他の五筆の農地につき買収計画、売渡計画を樹立し控訴人久野育雄に関する部分については(同人の同居の妻子に関する部分を含む)別紙第二目録記載の農地について買収計画、売渡計画を樹立し出席委員全員の一致を以て之を決議(控訴人等が第二回買収、売渡計画と称するもの)していることが認められ且原審証人早川半一の証言によれば同委員会は右第一回計画の取消及第二回計画の樹立を当時控訴人等に通知したことが認められる、そこで右第一回計画と第二回計画とを比較するに第一回計画において(イ)の細田二十二番田二十三歩と(ロ)の中の一筆蟹田五十番ノ一田一畝六歩が含まれていたのに第二回計画においては此の二筆が削除されているだけである。

よつて第一回計画の取消が適法か違法かを考えて見るに行政庁は処分を受け若しくは受くべき者に利害を及ぼす行政処分を為したときは職権で自由に之を取消し得るものではなく違法若しくは不当を是正する等公益上の理由がなければならぬ。固より買収、売渡計画は権利の帰属の終局処分をするものではなく其の準備行為たる処分であるから買収処分或は売渡処分等の終局処分の如くたとえ違法があつてもそのことだけでは取消すことを得ず処分を受くる者の既得権を害するも尚之を取消さなければならぬという高度の公益の維持を必要とする程厳格なものではないが違法若くは不当の是正等其処に何等かの取消についての公益上の理由がなければならぬ。このことは買収計画、売渡計画の如く法規に覊束された行政処分については処分庁は自由な処分権を有するものではないことは疑のないところであるから処分庁を含む利害関係人の訴訟外における所謂示談又は協定成立が原因となつている場合も同様であつて成立した示談又は協定の線に沿う為めの取消であつても単に協定を成立せしめるだけの為めにする取消は違法であつて取消すべき公益上の利益がなければならぬ。本件においては前記認定の如く訴願庁の裁決によるものではなく処分庁たる横須賀町農業委員会、控訴人等、小作人等の間に訴願取下を前提として成立した訴訟外における前記の如き「調定」の線に沿つて第一回計画を取消すというのであるから単に紛議を収め示談又は協定を成立させるというだけの為めにする取消であつて他に取消すべき何等の公益上の理由が見当らないとすれば違法な取消であつて無効であると謂わなければならない。そして本件においては前記の如く第一回の計画において(イ)の細田二十二番田二十三歩(ロ)の蟹田五十番ノ一田一畝六歩が包含されていたのを第二回の計画においては此の二筆が削除されているだけであつて原審証人高津秀夫の証言によれば右(イ)の細田二十二番田二十三歩は現況宅地であつたことが認められ従つて此の一筆については第一回の計画を取消したことの理由が認められるが其の他の農地につき第一回の計画を取消すべき如何なる違法、不当があつたのか原審証人早川半一、高津秀夫当審証人岡戸昌司の各証言及其の他の証拠によるも其の合理的な理由が認められないのである(但し後述下前田四番田三畝四歩に関する第一回売渡計画の取消を除く)。当審証人久野与八郎の証言によれば控訴人等は久野安太郎が決議に参与したことを理由にして異議訴願をした結果訴願を取下げ第一回の計画全部を取消し新たに計画を樹立することになつた旨恰も第一回計画の取消は久野安太郎が第一回計画樹立に参与したことを問題にした結果であるが如き証言をしているが右は成立に争なき乙第一号証ノ一乃至四によればにわかに措信し難いところであり同号証によれば久野安太郎の参与は異議訴願の争点になつておらず第一回計画取消の決議の時も委員会は之を問題にしていなかつたことは明かである。然し委員会が意識していなかつた違法であつても別紙第二目録の農地中字下前田四番田三畝四歩の第一回売渡計画樹立については前記の如く売渡を受くべき小作人久野安太郎が委員として関与した当然無効ではないが取消し得べき違法があるから此の一筆について第一回の売渡計画を取消したことは結果において違法を是正したことになる(此の取消の決議が控訴人等に通知されたことは既に認定した通りである)。尤も此の一筆の取消の決議自体に久野安太郎が参与した違法がある、原審証人高津秀夫、早川半一、久野安太郎、当審証人早川半一の証言中久野安太郎は昭和二十七年四月十日の決議のときは欠席した旨の証言部分は既に説明した通り措信し難いのであつて同日の第一回計画の取消、第二回計画の樹立の決議に久野安太郎が参与したことは乙第一号証ノ四、当審証人岡戸昌司の証言によりて明かである。然し此の違法は前に述べたのと同様な理由により当然無効を惹起する程の重大な瑕疵ではないから右一筆について第一回売渡計画の取消は有効に存するものと謂わなければならぬ。買収計画、売渡計画と雖も既に買収処分、売渡処分が終了した後においてはたとえ計画に違法があつても既得権の侵害も已むを得ずとする程の公益上の必要がなければ取消すことはできないが未だ買収、売渡処分が終了していなかつた本件においては違法な計画は処分庁が自ら取消し得るものと考えられる、すると第一回の売渡計画中別紙第二目録記載の字下前田四番田三畝四歩については其の計画の取消によつて無効に帰しているものと謂わなければならない。

以上を要約するに別紙第一、第二目録記載の農地につき昭和二十六年十二月二十一日樹立された第一回買収計画、売渡計画の無効確認を求むる控訴人等の請求につき久野安太郎の関与を理由として全面的無効確認を求めるのは理由がないが、昭和二十七年四月十日の決議による第一回計画取消を理由とする之が全面的無効確認を求むる請求については別紙第一、第二目録記載の農地中字下前田四番田三畝四歩の一筆の売渡計画のみを除き其の買収及其の他の農地については其の第一回の計画を取消すべき公益上の理由が全く認められないから其の取消が無効であり従つて其の第一回計画の無効確認を求めるのは理由がなく、右一筆の第一回の売渡計画のみについては久野安太郎関与の違法があり之を取消したのは公益上の理由があり取消が有効であるから右一筆の第一回売渡計画の無効確認のみが認容せられるべきである。

第二、昭和二十七年四月十日の買収計画、売渡計画の無効確認請求について、

昭和二十七年四月十日横須賀町農業委員会は別紙第一、第二目録記載の農地につき買収計画、売渡計画を樹立したことは既に認定した通りである。そして此の決議は定員二十名の委員中委員高津元治欠席の外委員久野安太郎を含む十九名の委員出席し出席委員全員の一致を以て決議されたことも既に認定した通りである。右の計画について控訴人等は無効の理由として委員久野安太郎が決議に参与したこと、買収対価を定めなかつたこと、公告をしなかつたこと等を列挙し公告をしなかつたことは当事者間争がない。そして買収、売渡計画は買収、売渡が適正に行われる為めに一定の計画を定め之を公告して縦覧に供することを不可欠とするものであるから公告を欠く買収、売渡計画は重大明白な瑕疵あるものとして爾余の争点に関する判断を待つ迄もなく法律上当然無効であると謂わなければならない。自作農創設特別措置法第六条によれば計画を樹立したときは遅滞なく公告をしなければならないのであるから今更公告をするすべもないのであつて効力を認むるに由なき計画である(尤も前記の如く本件第一、第二目録記載の農地に関する限り第一回の買収計画が有効に存在するのであるから之と重複して樹立された第二回買収計画は此の点からも無効であり、又第二回の売渡計画は本件第一、二目録記載の農地中第二目録の字下前田三畝四歩を除き其の他の農地については前同様第一回の売渡計画が有効に存在するのであるから重複して樹立されたものとして此の点から言つても無効である)。そこで公告のない計画の無効確認を求むる訴益ありや否やを考えるに第二回買収、売渡計画は原審証人早川半一の証言によれば右樹立の旨を控訴人等に通知したことを認め得べく又被控訴人は本件土地の買収売渡は第一回の計画に基くものであると主張するけれども成立に争なき乙第一号証の二、乙第二号証ノ一乃至十二、乙第一号証ノ一乃至三によれば第一回の計画においては買収、売渡の時期は昭和二十七年三月二日と定められていたのに買収、売渡の時期を昭和二十七年四月十二日と記載した買収令書、売渡通知書が発布せられていることを認め得べく外部の者から見ると行政庁は昭和二十七年四月十日の第二回計画樹立に基いて行動しているかの如き観なしと為すことを得ない。斯様な状態に在つては控訴人等は公告なしと雖も第二回の計画の無効確認を求むる利益ありと謂うが相当である。又本件土地の第一回の買収計画が有効であり且前記の如く買収令書が発布されている以上控訴人等は右買収令書による買収処分が取消にならない以上又其の無効なることが確認されない以上本件土地の所有権を有しないのであつて売渡計画の無効確認を求むる利益がないと言えるかと謂うに本件は買収処分の有効、無効を訴訟物としていないから主文において其の判断を示さない。そして前記認定の如く第一回の買収、売渡計画がありそれが異議により一部取消になり追加買収の樹立があり以上の計画が全面的に取消され第二回の買収、売渡計画が樹立されたというふうに計画が前後錯綜しており、第二回の計画に基くかの如き(或はそうでないかも知れないが)買収令書、売渡通知書が発布されている状態の下においては控訴人等が終局的な買収、売渡処分の無効確認を求むるより前に先づ其の基礎前提を為している前記買収計画、売渡計画が凡て無効なりや或は何れが無効なりやの確認を求むるのは相当であつて売渡計画の無効確認のみは之を求むる利益がないとは謂い得ない。

以上説示の通り控訴人等の本訴請求中別紙第一、第二目録記載の農地につき昭和二十六年十二月二十一日樹立された買収計画の無効確認を求むるは理由がないから之を棄却すべく同日樹立された右農地の売渡計画中字下前田四番田三畝四歩については其の無効確認を求むるは理由があるから之を認容すべきも其の他の農地につき売渡計画の無効確認を求めるのは理由がないから之を棄却すべく、昭和二十七年四月十日に樹立された別紙第一、第二目録記載の農地に関する買収計画、売渡計画は何れも無効であるから之が無効確認請求は認容すべきである。

最後に原審昭和二十九年七月十七日の口頭弁論調書によれば裁判長外二名の裁判官列席し合議の上弁論を終結し同年八月二十一日判決言渡を為す旨裁判長が告知しているところ、昭和二十九年八月二十一日の口頭弁論調書によれば裁判長は判決言渡期日を延期し同年十月十四日に言渡をする旨告知しているが裁判長以外の列席した裁判官の氏名の記載がなく、昭和二十九年十月十四日の口頭弁論調書によれば裁判長は判決原本に基き主文を朗読して判決を言渡しているが前同様裁判長以外の列席した裁判官の氏名の記載がない。即ち原判決は合議裁判所の判決であるから合議裁判所を構成する定数の裁判官が関与して言渡を為すべきで合議体の判決を単独裁判官が言渡すことは違法である。そして前記口頭弁論調書によつては合議体による言渡であることの証明ができないから民事訴訟法第百四十七条、第三百八十七条に従い原判決を取消すべきであり当審において本案につき判決を為すに熟しているから控訴人等の本訴請求を前記の限度において認容し、同法第九十六条、第九十二条、第九十三条に従い主文の如く判決する。

(裁判長裁判官 山田市平 裁判官 県宏 裁判官 小沢三朗)

(別紙目録は省略する。)

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